『秒速5センチメートル』の感想(ネタバレあり)

以下、ネタバレになります。


「すべてが綺麗だった」という感想が最もしっくりくるように思います。
異性への一途な想い、息を呑むような風景、そして過去ではなく未来を選んだ主人公。印象に残っている要素のすべてが「綺麗」でした。(それ以外の要素はあまり心に留まらなかったのかな)

以下、それぞれの感想を。

1.異性への一途な想い
主人公である貴樹の想いは終始痛々しいほど伝わってきたし、2話に登場する花苗の片想いも、自分の経験を重ねて観てしまうほどでした。彼女の心の動きが手にとるように分かるようで、花苗が貴樹に想いを打ち明けようと決意し、2人で帰路についたシーンが印象的です。いざ告白しようとするとやはり現実が見えてきて、告白なんてできないと彼女は悟ったわけですが、そのときの彼女の心境を想像するといたたまれない・・・。振り向いてもらうためにどれだけ努力を重ねても、それは報われるとは限らない。こんな冷酷な現実を受け入れるしかないと悟った瞬間なわけですからね。

2.息を呑むような風景
これは実写以上に綺麗な世界が描かれていて、まるでファンタジーな世界にいるのではないかという感覚を喚起してくれました。
学生の時に倫理で教わったイデアという言葉がありましたが、まさにそんな感じ。理想郷のなかに溶け込めたような錯覚がこれまた非常に幻想的でした。

3.終幕において過去ではなく未来を選んだ貴樹
彼の一途な想いというのは、美しく尊いものです。しかしながら彼は記憶の中の明里をみていて、過去に囚われているように感じてしまいました。最後の踏切のシーンで過去と決別するに至りましたが、これはカタルシスそのものでした。過去の想いに囚われて新しい扉を開くことができず、次第に本来の目標を見失っていく。そんな呪縛を彼自身の力で解き放ったわけです。希望にあふれた終わり方だったと個人的には解釈しようと思いました。


まぁ、そんなこんなで感想を書きましたが、自分の過去や倫理観、そこから生じている呪縛というものをこの物語の主人公と一緒に解き放つことができた気がしたし、山崎まさよしの主題歌が流れるクライマックスのシーンも、各々の人物の想いが交錯し、津波のように一気に押し寄せてくる壮絶なもので圧倒されましたし、ロケットなど無機質な物質に比喩する表現も気に入りました。

とてもよかったです。